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2022.07.22
高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病で家の近くのクリニックに40年程通っていましたが、1年半前から歩くのもやっとで通院が難しくなったA子さん(90代、女性)。かかりつけ医からは受診しないと薬が出せないと言われ、訪問診療を開始します。
訪問診療は毎月1回以上の定期的な診察と、体調悪化時等の臨時の対応を組み合わせて行う診療です。例えば、慢性のご病気、心不全や呼吸不全などに加え、脳梗塞後遺症による麻痺や加齢による筋力低下、認知症の進行などで通院が難しくなった方などが多く、治療によりどんどん元気になることを目指すというよりは、体調を維持し、発熱や原疾患の増悪などの体調悪化時に速やかに治療を開始することで重症化を防ぐ、そういったことが訪問診療の大事な役割です。
また、最近ではがんが進行して治療が困難な方の在宅療養を支援するケースが増えており、がんを治すための積極的な治療(抗がん剤治療等)ではなく、つらい症状をできるだけ和らげるよう、最大限の専門的な緩和ケアをご自宅で行う、そういったことも増えています。そのため、訪問診療を開始することで劇的にお元気になるケースというのは、それほど多くはありません。とはいうものの、在宅医療に携わって10年程で10例は経験している医師がいます。
読者の皆様の中にも、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病で、継続して薬を飲んでいる方もいらっしゃるかと思います。よく、糖尿病や血圧の薬は一生飲み続けなければいけないと言われます。でも、実際はどうでしょうか? 年齢とともに食事の量が減り、塩分摂取量も減ると、自然と血糖値や血圧が下がってくることもあるでしょう。また、年齢とともに、肝臓や腎臓などの機能が低下し、薬を分解して排泄する能力が低下していきます。そうなると、薬を減量したり中止したりすることが必要です。働き盛りのお元気であったときに飲んでいたのと同じ薬を同じ量飲み続けることは、実は危険な場合もあります。
A子さんは、高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病があり、40年来、近くのクリニックに通院し、ほぼ同じ薬を飲み続けていました。また、眠れないときがあり、時々精神安定剤を飲んでいました。85歳頃、骨粗鬆症が原因で腰椎圧迫骨折を発症し、腰痛のため痛み止めや湿布を続けていましたが、だんだん歩くのが大変になり、さらに体力が落ちて、いよいよ通院することが難しくなってきました。1年半前から自宅でほぼ寝たきりとなり、通院が中断、息子さんが薬だけもらいに行っていましたが、「受診しないと薬は出せない」と言われ、訪問診療を導入することになりました。
初診でご自宅に伺うと、A子さんは畳の上の布団で寝ていました。ご家族にお話を伺うと、5年くらい前から認知症を疑うような症状があり、ご飯を食べてもすぐに「ごはんはまだ?」と尋ねるようになり、その後はしだいにお箸やスプーンの使い方もわからなくなり、最近ではご家族が介助してようやく少しだけ食事をとっているとのことでした。トイレに連れて行くのも大変になり、最近はオムツを使用し、入浴もずっとしていませんでした。日中はうとうとしていて、夜になると少し目が覚めて、大声を出して家族を呼び、よく理解できない行動をすることが増え、精神安定剤を飲ませて眠られているとのことでした。高血圧や糖尿病、高脂血症などの薬は、かかりつけの先生に「ずっと飲み続けなさい」と言われたとのことで、一日も欠かさず飲ませていました。本人に問診をしましたが、声は弱々しく、簡単な質問には頷いたり首を振ったりするものの、会話は難しい状態でした。
次回、後半(2022年7月26日公開)では、A子さんが元気がなくなった原因が訪問診療で明らかになります。
(この記事は事実を元に再編集しています。)