下層ページメインイメージ
menu
close

高齢者が気を付けたい薬の飲み過ぎ

2022.07.26

高齢者が気を付けたい薬の飲み過ぎ

高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病で家の近くのクリニックに40年程通っていましたが、1年半前から歩くのもやっとで通院が難しくなったA子さん(90代、女性)。かかりつけ医からは受診しないと薬が出せないと言われ、訪問診療を開始します。訪問診療で明らかになったA子さんが元気がなくなった原因と、デイサービスに通えるまで回復されたA子さんの治療の経緯をお伝えします。

(目次)

  1. 訪問診療での利用が多いケース
  2. 糖尿病や高血の薬は一生飲み続けるべきか
  3. 40年来のかかりつけ医に言われたことを忠実に守ったものの
  4. 元気がなくなった原因が訪問診療で明らかに
  5. 薬の調整によって別人のように笑顔も食事も増えたA子さん

1.訪問診療での利用が多いケース


訪問診療は毎月1回以上の定期的な診察と、体調悪化時等の臨時の対応を組み合わせて行う診療です。例えば、慢性のご病気、心不全や呼吸不全などに加え、脳梗塞後遺症による麻痺や加齢による筋力低下、認知症の進行などで通院が難しくなった方などが多く、治療によりどんどん元気になることを目指すというよりは、体調を維持し、発熱や原疾患の増悪などの体調悪化時に速やかに治療を開始することで重症化を防ぐ、そういったことが訪問診療の大事な役割です。

また、最近ではがんが進行して治療が困難な方の在宅療養を支援するケースが増えており、がんを治すための積極的な治療(抗がん剤治療等)ではなく、つらい症状をできるだけ和らげるよう、最大限の専門的な緩和ケアをご自宅で行う、そういったことも増えています。そのため、訪問診療を開始することで劇的にお元気になるケースというのは、それほど多くはありません。とはいうものの、在宅医療に携わって10年程で10例は経験している医師がいます。

2.糖尿病や高血の薬は一生飲み続けるべきか

読者の皆様の中にも、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病で、継続して薬を飲んでいる方もいらっしゃるかと思います。よく、糖尿病や血圧の薬は一生飲み続けなければいけないと言われます。でも、実際はどうでしょうか? 年齢とともに食事の量が減り、塩分摂取量も減ると、自然と血糖値や血圧が下がってくることもあるでしょう。また、年齢とともに、肝臓や腎臓などの機能が低下し、薬を分解して排泄する能力が低下していきます。そうなると、薬を減量したり中止したりすることが必要です。働き盛りのお元気であったときに飲んでいたのと同じ薬を同じ量飲み続けることは、実は危険な場合もあります。

3.40年来のかかりつけ医に言われたことを忠実に守ったものの

A子さんは、高血圧、糖尿病、高脂血症などの持病があり、40年来、近くのクリニックに通院し、ほぼ同じ薬を飲み続けていました。また、眠れないときがあり、時々精神安定剤を飲んでいました。85歳頃、骨粗鬆症が原因で腰椎圧迫骨折を発症し、腰痛のため痛み止めや湿布を続けていましたが、だんだん歩くのが大変になり、さらに体力が落ちて、いよいよ通院することが難しくなってきました。1年半前から自宅でほぼ寝たきりとなり、通院が中断、息子さんが薬だけもらいに行っていましたが、「受診しないと薬は出せない」と言われ、訪問診療を導入することになりました。

初診でご自宅に伺うと、A子さんは畳の上の布団で寝ていました。ご家族にお話を伺うと、5年くらい前から認知症を疑うような症状があり、ご飯を食べてもすぐに「ごはんはまだ?」と尋ねるようになり、その後はしだいにお箸やスプーンの使い方もわからなくなり、最近ではご家族が介助してようやく少しだけ食事をとっているとのことでした。トイレに連れて行くのも大変になり、最近はオムツを使用し、入浴もずっとしていませんでした。日中はうとうとしていて、夜になると少し目が覚めて、大声を出して家族を呼び、よく理解できない行動をすることが増え、精神安定剤を飲ませて眠られているとのことでした。高血圧や糖尿病、高脂血症などの薬は、かかりつけの先生に「ずっと飲み続けなさい」と言われたとのことで、一日も欠かさず飲ませていました。本人に問診をしましたが、声は弱々しく、簡単な質問には頷いたり首を振ったりするものの、会話は難しい状態でした。

4.元気がなくなった原因が訪問診療で明らかに

診察では、血圧が82/48と低く、非常に痩せており、背中から臀部にじょくそうができていました。足のむくみも目立ちました。訪問診療医は血液検査を実施するとともに、薬を大幅に整理することにしました。高血圧や糖尿病、高脂血症の薬、精神安定剤も中止。どうしても眠れないときのみ使用できるよう、ふらつきや転倒などの副作用の少ない、ご高齢の方でも比較的安全に使用できる薬を処方しました。とは言っても、できるだけ飲ませず、日中頑張って起きていただき、夜に自然と眠れるように生活リズムを整えてもらうようにしました。じょくそうについては、被覆材を貼って皮膚を保護するとともに、介護保険を活用してマットレスを導入していただきました。

血液検査では、食事量の減少によるものか、栄養状態が悪く、軽度の貧血も認めました。また、肝機能、腎機能、心機能の低下を認めました。血糖値は65、HbA1c4.6と低く、食事量が減少しているにもかかわらず糖尿病の薬を続けていたことで、慢性的な低血糖状態であったと推測されました。血糖=ブドウ糖が、脳細胞にとっての唯一の栄養源であり、低血糖状態が続くと、脳細胞の働きが低下します。慢性的な低血糖が認知機能低下の一因であったのかもしれません。

5.薬の調整によって別人のように笑顔も食事も増えたA子さん

1週間後に再診したところ、初診時とは別人のようで、椅子に座って笑顔で出迎えてくださいました。声に力があり、質問にもわりとしっかり答えてくれました。食事量も大幅に増え、スプーンで自ら食べるようになっていました。ご家族が介助すれば、トイレにも行けるようになりました。血圧は120/70と改善、じょくそうも改善傾向でした。

それから半年後、食事量や塩分摂取量の改善に伴って徐々に血圧や血糖値が上昇したため、最少量の長時間作用型の降圧剤と、血糖値が高いときだけ作用するタイプの糖尿病の薬、その他必要最小限の薬だけを継続しています。食欲も睡眠も良好です。一人での外出は不可能ですが、家の中ではなんとか手すりなどにつかまってトイレにも行けています。週に2回デイサービスに行くようになり、笑顔も増えてきました。初診時とは別人のようにお元気に過ごされています。

訪問診療を開始し、薬を大幅に整理しただけで、劇的に元気になったケースを紹介しました。体の状態に応じて薬は常に見直すこと、対面での診療を受けずに薬を飲み続けるのは時に危険であること、薬による治療だけではなく訪問診療で生活全般を見直すことで体調が改善する可能性があることなどをご理解いただければと思います。

(この記事は事実を元に再編集しています。)