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医療用麻薬で緩和ケア

2022.10.17

医療用麻薬で緩和ケア

痛みは我慢しない方がより長く生きられるとも言われている緩和ケア。中でも、がんの痛みを和らげる医療用麻薬は、そのマイナス的なイメージから使用をためらう方がいます。「依存症になる」「最後の手段」「寿命が縮まる」という不安があり、痛みを我慢してしまいがちです。医療用麻薬に対する誤解が解ければ、心のハードルが少し低くなるかもしれません。

(目次)

  1. 「麻薬」という言葉の重み
  2. 痛みが伝わる仕組み
  3. 医療用麻薬は依存症になりやすいのか
  4. 医療用麻薬を使うのは病が深刻なのか
  5. 医療用麻薬は末期がんのイメージ
  6. 医療用麻薬を使うと寿命が縮まるのか
  7. 医療用麻薬の副作用
  8. 緩和ケアがうまくいくカギ
  9. 苦痛は目標を立ててコントロールする
  10. 痛みがある時の状況を教えてください
  11. 最新情報を得る

1.「麻薬」という言葉の重み

医療用麻薬は鎮痛薬の一種です。「麻薬」の名前が付かなければ、多くの方が他の鎮痛薬と同じように痛みがある時には積極的に使うことができるかもしれません。実際、がんの痛みで医療用麻薬を使用した方は「(麻薬のイメージから廃人や依存症になると思い)できれば使いたくなかった」「選択の余地がなく、仕方なく」と語っており、ネガティブな気持ちを持っていたことがわかります。また、使用して依存症にならないことを実感した後も「本当に大丈夫なんだろうかと思った」と不安が拭い切れていませんでした(村上大介2018)。

本来は、痛みに対して心も体も楽にする医療用麻薬ですが、ご本人が使用すること自体にストレスを感じていたら本末転倒です。また、痛みを我慢していると、治療しても痛みが取りづらくなるとも言われています。緩和ケアのために医療用麻薬が必要な時には納得して使いたいものです。

2.痛みが伝わる仕組み

痛みは脳に伝わって、はじめて痛いと感じます。脳に痛みを伝える回路(脊髄、脳幹、大脳皮質)を遮断して痛みを伝えないようにしているのが、医療用麻薬です。

3.医療用麻薬は依存症になりやすいのか

麻薬を使った人が依存症になりやすいのは、ドーパミン(神経伝達物質)が過剰に放出されて快楽を得るためと言われています。しかし、これは痛みがない場合に限った話です。

そもそも痛みがある場合は痛みでドーパミンの働きが抑えられているので、医療用麻薬を投与しても依存症になることはありません。ですから、がんの治療によって痛みがなくなれば、徐々に薬を減らして使用を止める必要があります。また、神経ブロック、放射線治療などで痛みが和らぐ場合、医療用麻薬は必要ありません。

こうした見極めは医師が行います。ご自分の判断で急に医療用麻薬の量を減らしたり、使用を止めたりすると、退薬症状が出ることがあります。

4.医療用麻薬を使うのは病が深刻なのか

医療用麻薬に頼らなくてはならない程、病気が進行しているというショックが、薬を使う行為にまで不安が及んでいることがあります。けれども、医療用麻薬を使うか否かは、病の進行度で判断するのではありません。他の鎮痛剤では効きにくい場合に使います。医療用麻薬も含めた鎮痛薬は痛みの強さやその方と薬の相性によって単独で使ったり、組み合わせたりするのです。

医師はWHOが掲げる世界共通の3段階方式で患者さまの苦痛の度合いを判断しています。1段階目で医療用麻薬以外の鎮痛剤を試します。それでも、症状が治まらない場合は、2段階目以降から医療用麻薬が登場します。病が深刻だから使うのではありません。

5.医療用麻薬は末期がんのイメージ

医療用麻薬が多く使われるのは、がんの痛みです。がんは初期から痛みが出やすいのが特徴で、診断時に20-50%、進行がん患者全体では70-80%の方が痛みを抱えています。しかも、痛みがあるがん患者の8割は身体の2か所以上に痛みがあり、6割の患者の原因は複数だと言われています(厚生労働省「医療用麻薬 適正使用ガイダンス」2017)。がんが治る、治らないに関わらず、がんになると初期から使う可能性が高いということです。

がんの痛みに使われることが多いながら、他にも使われる場面はあります。手術後や整形外科疾患や帯状疱疹、糖尿病を起因とする神経障害性疼痛など、予想以上に痛みが続く場合には、医療用麻薬を使うことがあります。

6.医療用麻薬を使うと寿命が縮まるのか

適切な使用をしていれば、医療用麻薬の使用が寿命を縮めることはありません。医療用麻薬以外の緩和ケアと医療用麻薬での緩和ケアでは、余命に違いはなかったと報告されています(Wong 2004)。

7.医療用麻薬の副作用

副作用を気にされる方もいますが、最近の薬はかなり改善されています。とはいっても、個人差があるのも事実です。ここでは主な副作用3つを挙げます。副作用で一番出やすいのが便秘で、8割くらいの患者さまが経験します。便秘薬やリハビリによりなるべく溜めないように配慮します。次に多い副作用は吐き気で、吐き気止めで落ち着かせます。そして、薬の使用始めに出るのが眠気です。数日経つと体が慣れてくるため、様子をみます。

8.緩和ケアがうまくいくカギ

頭ではどれ程、医療用麻薬について理解したところで、これらを使いこなせる医師と患者様と医師の信頼関係がないことには最大限の緩和ケアは成り立ちません。

医療用麻薬と言えば、昔からモルヒネが使われていました。現在はフェンタニル、オキシコドンなど7種類に選択肢が増えたことで、これらの医療用麻薬を使いこなす医師の力量が問われています。

医師は患者様と薬の相性や病態によって鎮痛薬を見極めます。その方の痛みや症状と向き合い、最大限の緩和ケアを提案してくれる医師がいるかによって、体力維持や心持ちにも大きく影響します。

医療用麻薬は適切な使用で効果を発揮するものなので、医師の指示した摂取量と時間を守ることが大事です。医師との信頼関係があれば、薬に対して抵抗感を感じることがないので痛みをコントロールしやすいでしょう。

9.苦痛は目標を立ててコントロールする

苦痛は段階を追って解決できるように目標を立てます。第1目標は夜間の痛みがなく安眠できること、第2目標は日中何もしていない時に痛みがないこと、第3目標は動いた時に痛みが走らないこと。完全に痛みを取るのは、難しい場合もありますが、気にならない程度に落ち着かせるように努めます。

10.痛みがある時の状況を教えてください

痛みは測定することができません。だから、医師は「痛みはないですか?」と聞いて確認します。そのような時、我慢をせずに不快な症状があれば教えてください。

いつ(睡眠時、安静時、体動時)、どこが(一カ所、複数箇所か、広範囲か)、どのように(ズキズキ、ジンジン、キューッと締め付ける感じなど)、どのくらい(全く痛みがない時を0、今までで一番痛かった時を10とすると、今はいくつか)、薬を飲む前後の体調の変化などを伝えると、処方する際の参考になります。ご本人が伝えるのが難しければ、ご家族、介護や看護にあたる方に記録してもらうと良いでしょう。

11.最新情報を得る

医療用麻薬は日々新しくなり、以前より痛みのコントロールや副作用が改善されています。また、服用の頻度についても一昔前は数時間置きに飲まなければならなかったのが、今は1日1、2回の服薬で効果を発揮しています。投与方法においても、飲み薬が難しい場合には貼り薬、座薬、注射と選択肢が広がっています。自分で投与する方法もあります。

WHO方式がん疼痛治療法に従えば、7~9割の身体的な痛みを緩和できることがわかっています。痛みの緩和ケアが必要になった時には、医療者から最新の情報を得て、自分に合った選択ができると良いでしょう。医療用麻薬は前向きに生きるための一助になるはずです。

参考文献等:
厚生労働省「医療用麻薬 適正使用ガイダンス」2017
村上大介、廣川恵子「医療用麻薬の使用に対するがん患者の思い」川崎医療福祉学会誌vol.27 No.27 No.2018 555-562
Wong G. Y., Schroeder D. R., Carns P. E., Wilson J. L., Martin D. P., Kinney M. O., Mantilla C. B., Warner D. O., JAMA, 291, 1092-1099 (2004)
特定非営利活動法人日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版」2020年版、金原出版