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在宅医療とACP

2022.09.26

在宅医療とACP

ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を解説している様々なホームページやガイドラインには「自分らしい選択」とか、「自分らしく暮らしていく」という文言が並びます。とは言うものの、在宅医療の現場で、実際にご本人に伺ってみると困惑した表情を浮かべることが少なくありません。「自分らしくって、今更なんで? これまでも普通に暮らしてきたけど……」という反応がほとんどです。ですから、「普通の暮らし」が危機を迎える場面、たとえば肺炎や骨折などの急性疾患をイメージしていただく。あるいは、介護度が増した時の状況を説明したりして、自分だったらどこでどう過ごしたいか、どのような医療を受けたいかを考えていただくことになります。

では、「治る病気はきちんと治したい」「入院はなるべくしたくない」といったご本人なりの意見が出されれば、それを家族や支援者たちと共有することでACP(人生会議)は終わりなのでしょうか?

実際にはそうではありません。その人が暮らしている毎日は、家族や友人、近所の方、支援者など、関わってくださる多くの方がいらっしゃいます。1人で生きているわけではなく、関わりながら生きているわけです。その方たちがご本人の意思表示を受けてどのように感じ考えるのか。それを聞いたご本人が更にどう感じ考えるのか。そこまで共有するのがACP(人生会議)ではないでしょうか。

もちろん言うまでもなくご本人の意思は最優先されるべきです。そして特に現在ご高齢の方々の世代は、自分の思いを明確に意思表示する方が少ない世代かもしれません。その意味で「自分らしい」選択を強調するACPのガイドラインはとても意義があるのだと思います。一方で「自分らしさ」を強調するあまり、共に関わる方々にも同じように感じるところがあり、思うところがある、という側面が薄れているようにも感じます。

これまでACPにはそのような違和感がありましたが、もやもやで終わっていました。しかし今回、『他者と生きる リスク・病・死をめぐる人類学』(磯野真穂・著、集英社新書)という本を読んで「そういうことだったのか!」ととても感銘を受けました。同書の第6章では「自分らしさ」と「人生会議」について深く考察されていてとても勉強になります。「自分らしさ」を強調する人生会議は「一緒に考えていこう」という共同意思決定モデルであり、紐帯と共生、及びそれを支える新しい倫理観がそれを支えている。興味がある方は是非読んでいただければと思います。在宅医療における意思決定を支援する立場としてとても刺激になった本でしたのでご紹介させていただきました。

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