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治療により改善できる認知症

2022.08.02

治療により改善できる認知症

認知症は誰でも年齢とともに発症する可能性があり、特別なものではありません。認知症と診断されていても、お元気に過ごされている方もたくさんいます。認知症にも様々な分類・原因があります。一番多いのはアルツハイマー型認知症で、現代の医学では根本的な治療法はありませんが、一部、治療により改善が可能な認知症もあります。

  1. 認知症の進行で通院が難しくなり訪問診療をスタート
  2. 「貧血」をキーワードに複数の血液検査で原因を突き止めた訪問診療医
  3. 適確な検査、診断、治療により再び趣味が楽しめるまでに回復


1. 認知症の進行で通院が難しくなり訪問診療をスタート

82歳のB子さんは、半年ほど前から「物忘れがひどくなった」とのことで、病院の脳神経内科でMRI検査等を受け、アルツハイマー型認知症と診断されました。その後、認知症の進行とともに、両下肢のしびれがひどく、歩行にも支障をきたすようになり、車椅子生活となってしまいました。トイレにも自分で行けなくなり、病院への通院は難しいため、当院の訪問診療が開始となりました。


初診時、無表情で、わりとしっかりお話されていましたが、同じ話の繰り返しが目立ちました。最近はとても疲れやすく、あまり動く気がしないとおっしゃっていました。身体所見では、脱毛が目立ち、眼瞼結膜(まぶたの裏側)に明らかな貧血所見(白くなる)を認め、顔色もやや悪く、両下肢に浮腫(むくみ)を認めました。両足先を中心にしびれが強く、知覚の低下や軽度の運動障害(足首から先や足の指が動かしにくい)も認めました。本人の自覚はありませんが、ちょっと体を動かしただけで息切れが目立ちました。


2.「貧血」をキーワードに複数の血液検査で原因を突き止めた訪問診療医

病院からの診療情報提供書を確認すると、軽度の貧血を認めていました。そのため、初診時に、貧血の鑑別や認知症の鑑別に関わるいくつかの項目を含めた血液検査を実施しました。その結果、ヘモグロビン8.0と明らかな貧血(大球性貧血)を認めました。数日後に詳しい検査結果が判明、ビタミンB12が著しく欠乏しており、そのため「巨赤芽球性貧血」をきたしていると考えられました。また、甲状腺ホルモンの値が通常よりかなり低く「甲状腺機能低下症」と診断されました。


ビタミンB12は、血液を作ること(造血)や、末梢神経の働きに関わるビタミンです。胃切除後に欠乏することが多いのですが、B子さんは胃の手術歴はなく、さらに血液検査で詳しく調べたところ「内因子」と呼ばれるビタミンB12を吸収するために必要な物質に対する自己抗体ができており、ビタミンB12が吸収できていないと考えられました。また、甲状腺ホルモンは、体の様々な働きに関与する、人間が生きていくために必要なとても大事なホルモンです。甲状腺ホルモンが不足すると、短期記憶障害などの認知機能低下、全身倦怠感(だるさ、疲れやすさ)、心機能低下、うつ傾向、浮腫などにつながります。


3.適確な検査、診断、治療により再び趣味が楽しめるまでに回復


ビタミンB12については適時筋肉注射を実施、甲状腺ホルモンについては内服薬での投与を開始しました。投与開始とともに、速やかに貧血は改善し、動いたときの息切れや、疲れやすいとの症状は著明に改善しました。足のむくみも改善し、約3か月後には足のしびれも改善し、家の中で手すりにつかまって歩けるようになり、トイレにも自分で行けるようになりました。また、笑顔も増えて活動的になり、同じ話の繰り返しも減り、会話も弾むようになりました。


その後もB子さんはお元気に過ごしています。週に3回のデイサービスで、運動をしたり、カラオケをしたり、同世代の方とお話をすることをとても楽しんでいます。認知症は少しずつ進行しているようですが、今の生活では目立った支障はなく、ご家族の温かい眼と少しの介護で見守られながら、穏やかに過ごすことができています。


訪問診療を開始し、身体症状の原因について血液検査で鑑別することができ、薬による治療ですごく元気になったケースを紹介しました。甲状腺機能低下症も、巨赤芽球性貧血も、いずれもまれな疾患ではなく、訪問診療で診断することも時々あります。 このように、負担の少ない必要最小限の検査や治療を実施することで、質の高い在宅療養を継続することができるケースもあることをご理解いただければと思います

(この記事は事実を元に再編集しています。)