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複数の疾患を抱え通院が困難な方にお勧めする訪問診療のメリット

2022.06.20

複数の疾患を抱え通院が困難な方にお勧めする訪問診療のメリット

長年通い慣れたかかりつけクリニックや病院でも家族の付き添いがないと通院できなくなってきた、足腰が弱ってきて通院を負担に感じるようになった段階で訪問診療を視野に入れることをお勧めします。訪問診療を利用することで体調を管理しやすくなったり、身体的、経済的、時間的な節約につながったりすることもあります。

(目次)

  1. 複数の疾患を抱えたご高齢者の通院外来の限界
  2. 日々の管理は訪問診療でまとめてケア、必要な時のみ専門外来へ
  3. 自己管理しきれなくなった薬、負担の重い費用も総合的に管理すると……

1.複数の疾患を抱えたご高齢者の通院外来の限界

Iさん(80代、女性、要介護1)はご主人と2人暮らしで、エレベーターがない団地の3Fに住んでいます。脳梗塞による軽度の左片麻痺があるものの屋内の歩行は概ね自立しており、介護保険の利用は入浴と体操を目的として週1回のデイサービス程度です。

医療機関にはこれまで外来通院していましたが、半年くらい前から歩行時に息切れが目立つようになり、外出自体が負担になっていました。様々な疾患を抱えていて、しかもそれぞれ別の医療機関にかかっているため、週に何回も外出しなければいけない状態でした。担当ケアマネージャーは早い段階からご本人や夫に訪問診療に切り替えることを提案していましたが、夫婦ともに誠実で義理堅い性格のため、長年世話になった先生を断ることに抵抗があったようです。負担がありつつもタクシーを利用して通院を続けるからと断っていました。

ご本人の意向を尊重してケアマネジャーはその後様子をみていましたが、デイサービスの職員から浮腫が悪化していて歩行が不安定になり転倒もしているようだ、との報告が入りました。そのため再度本人たちに「せめて訪問診療がどういうサービスなのか説明だけでも聞いてみませんか?」と提案したところ、ご快諾。当院に「正式な依頼に繋がらないかもしれないが説明してもうことは可能か?」と相談の電話が入りました。

2.日々の管理は訪問診療でまとめてケア、必要な時のみ専門外来へ

さっそく、総合医療相談員(※)が担当ケアマネージャーと自宅に訪問しサービスの概要を説明しました。複数の医療機関に通院しているとの話を聞いていたため、特に「医学総合管理」の説明を重点的に行いました。

「医学総合管理」はその名の通り全身を医学的・総合的に管理します。外来には診療科という概念があるため、疾患によって患者側が受診先を選定するのに対し、在宅医療においては「総合的」に、つまり全ての疾患に対応するのです。ご高齢者はそもそも抱えている疾患が1つだけということの方が稀で、高血圧や糖尿病などの内科的疾患や腰痛・膝痛などの整形疾患、乾皮症・白癬症などの皮膚疾患など複数抱えていることが多くあります。

この方の場合、これだけの医療機関に通院していました。

①脳梗塞後遺症→大学病院・脳神経内科 半年に1回

②慢性心不全→大学病院・循環器科 2ヶ月に1回

③過活動膀胱→総合病院・泌尿器科 3ヶ月に1回

④高血圧・糖尿病→内科クリニック 毎月

⑤骨粗しょう症、腰椎圧迫骨折→整形外科クリニック 週1回(注射あり)

⑥爪白癬→皮膚科クリニック 毎月

⑦白内障、ドライアイ→眼科クリニック 毎月

長年の闘病の経過の中で何か症状が新たに生じる度に、あるいは検査で異常が見つかる度に「あちらに行った方が良い」「こちらに行ってください」と勧められ、現在の状況に至っているとのことでした。その中にはケアマネジャーが把握していない通院先も複数ありました。

医学総合管理は「全ての病気に対応していく」が、訪問医は全ての病気に対して専門の先生と同等の対応ができる訳ではありません。病院でしかできない検査や治療もあります。一方で、在宅でできる検査や治療も増えてきています。患者様・ご家族の考え方にもよりますが、訪問診療で可能な範囲の治療を行いつつ、症状が悪化したり、自宅ではできない画像などの検査が必要になったりした場合に再度専門医に受診するという方法もありあます。訪問医は常日頃から医学総合管理を実践しているため、対応できない疾患はほとんどありありません。QOL(人生の質、生活の質)に留意しながら患者家族とコミュニケーションを取り、受診を希望した時だけ外来に紹介することが大方です。この方の場合、投薬内容は年単位で変わっていないとのことだったため、訪問医に移行すること自体はそれほどハードルが高くないように思えました。

3.自己管理しきれなくなった薬、負担の重い費用も総合的に管理すると……

さらに、許可を得た上で薬手帳を確認したところ、内服薬だけでも全部で10種類超。しかも、ご本人たちは何の薬かもよくわかっていないご様子でした。また、利用している薬局もバラバラでシールの日付も前後していたりするため、薬の管理や服薬状況の確認も必要と思われ、不適切な服薬による体調悪化が懸念されました。全体の投薬状況を管理し、QOLと医学的な必要性との間で整理していくことも訪問医の重要な業務となります。

また、体力的な負担とは別に、経済的な不安を抱えているとの申し出がありました。医療費よりも交通費(タクシー代)の方が厳しいとのことでした。医学総合管理は1割負担の方で3,000円(月1回の診察)~5,000円(月2回以上の診察)くらいの費用がかかります。医療費の中では高額にあたりますが、往復のタクシー代を考えると問題にならないとのことでした。

支援者側からみれば訪問診療に一本化することのメリットは多いように感じましました。ただ、一この日初めてお会いした私にもとても丁寧に対応されるほどの誠実なご夫婦であり、長年通院されている先生方への配慮の念と義理堅さは容易に窺い知れました。そのため訪問診療にメリットを感じるのであれば、次回の受診時に担当の先生と相談されることをお勧めしました。その際に、そのような相談を行うことは決して失礼にはあたらないこと、むしろ最近は国の方針で各医療機関の機能が細分化されており、病状に応じて患者様に合った医療機関を選定することは外来の先生方にも浸透していることを申し添えました。

後日、担当ケアマネジャーから一括して当院の訪問診療に移行することをご本人・ご家族が希望されたとの連絡をいただきました。体力的にも経済的にも限界にきていたとのことでした。正式な依頼になったため、医師の初回訪問にむけて具体的な準備を開始しました。過去の複数の医療機関への受診状況や受診の経緯を整理し、訪問診療の依頼にいたる経緯を担当する医師に報告することは総合医療相談員としての重要な業務の1つです。この報告が無いと初回訪問で医師が一つ一つ経緯を確認しなければいけなくなり、今後の療養方針の相談になかなか辿りつくことができなくなります。この方の場合、初回訪問でスムーズに関係を築くことができ、さっそく服薬体制と服薬内容を見直すことになりました。整形外科に行っていた日もデイサービスに行くことになり、家族も受診の付き添いが無くなって生活が少し落ち着かれました。

※総合医療相談員は患者様、ご家族が安心して訪問診療をご利用できるように医療や福祉の相談に乗ったり、病院や施設、関係事業所との調整をしたりします。訪問診療クリニックによって呼称が異なったり、事務員が役割を担ったりします。