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在宅医療に行きつく3、4割の患者様が求めている治療

2022.07.18

在宅医療に行きつく3、4割の患者様が求めている治療

在宅医療で大事なのは、その方が私たち医療者に何を求めているかを知ることです。私たちの経験で言うと、住み慣れた場所での療養生活を希望される3、4割の方は根本的に体を治すことを望んでいるわけではありません。これまでと変わらない日常生活を送りたいとおっしゃることがほとんどです。そのためにはどのような医療の選択があるかを示すことが在宅医の役目だと考えています。

(目次)

  1. 治療のメリット・デメリットを知って、自分で医療を選択する
  2. あえて、薬を処方せずにその方の療養生活を支える

1、治療のメリット・デメリットを知って、自分で医療を選択する

Hさんはご高齢によって腎臓の機能が低下した結果、高血圧となり、心不全の合併症状も出ていました。初診では今ある症状を改善するために治療をするか、しないかを天秤にかけることから始まりました。

腎臓は老廃物を尿として排出し、全身にきれいな血液を巡らせるのが主な働きです。この他に全身の水分バランスを調整したり、強い骨を作ったりする役目があります。腎臓に不調を来して、貧血や高血圧などの症状が出た時にはかなり進行している場合がほとんどです。生命を維持するには透析か腎臓移植の方法しかありません。

透析の場合は、週3回、1回4時間程度継続的に通院する必要があります。とは言っても、透析によって腎機能が回復するわけではないので薬の治療は必要です。透析すれば、寿命は5年程度延びるであろうとご本人に告げられました。一方、腎臓を提供してもらうことで腎機能の回復が期待できるけれども、拒絶反応のリスクが免れないことが伝えられました。

いずれも、腎機能を維持もしくは回復させるためには、積極的な治療が必要です。しかし、Hさんは治療によって生活が制限されるのを嫌いました。

2、あえて、薬を処方せずにその方の療養生活を支える

この先の人生でHさんが大切にしたいのは、出来る限り今と変わらない生活を送り続けることです。透析も移植も拒んだHさんに対して医師は少しでも高血圧をコントロールすることで腎臓への負担を軽減しようと、初めのうち降圧剤を処方していました。ところが、訪問診療の度に服薬状況を確認すると降圧剤が残っていることがよくありました。服用しない理由を伺えば、降圧剤を使うと気持ち悪くなるから血圧が安定している時は服用を控えたいということでした。「そうしたお考えをお持ちなら……」と、医師はあえて血圧をコントロールせずに、血圧を高いままで経過観察することにしました。医師の経験値からHさんの血圧は経過観察で生活できるレベルと判断したのです。

Hさんのように、ご自分の判断で血圧の変動に合わせて降圧剤を飲んだり飲まなかったりすると、リバウンド現象が起こることがあります。これは、突然、薬を止めた反動で、急激に血圧が上がってしまう現象です。この現象を回避するために降圧剤の処方を止め、Hさんのスタンスを可能な限り尊重していく方針に変更したのでした。診療ガイドラインはあくまで科学的根拠から導いた標準治療です。個々の状況によって臨機応変に対応していくことも必要です。

Hさんの場合「今ある症状を改善するために薬を飲み、別の症状に悩まされるくらいならば、新たに薬は飲みたくない」。こうした思いを尊重し、経過観察することです。薬を飲まないなら医師が介入する必要はないというように、突き放すことはしません。その時々生じる身体変化に対しての悩みをお伺いし、どう対応するかを一緒に考えます。

Hさんは奥様と二人暮らしです。人生のゴールをどこで迎えるかは、まだ決めていません。けれども、その答えを無理に追及することもありません。「家にいたい」という思いを支え続けるために、今は小さな体の変化を見逃さないように注意深く観察することだと医師は考えています。


(この記事は事実を元に再編集しています。)