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辛いリハビリがはかどるようになった理由

2022.05.20

辛いリハビリがはかどるようになった理由

「動ける限り畑を耕していたい」「生きている限り口から食べることにこだわりたい」。こうしたご本人の思いを尊重するために楓の風が実践する訪問診療の姿勢は、その方の自律を守ることです。体力を維持するためのリハビリテーション(リハビリ)も自律を守るための大事な訓練です。とは言っても、単なるリハビリの指導に留まりません。時にはその方の思い出に繋がるリハビリとなることもあります。

医師が「生きるための筋力を維持するために、適切な栄養摂取と適切なリハビリをしましょう」と教科書的なお話をしても、一方通行で終わってしまうことは少なくありません。そこで、楓の風では病院の外来よりじっくり問診できる訪問診療の利点を生かして、まずはその方のお考えを理解する時間を作っています。心筋梗塞となり心不全の状態であるTさん(90代・男性)も訪問診療医との話を通して、リハビリに励むことができた一人でした。

Tさんは医師の指示により訪問リハビリを利用されていましたが、週1回のリハビリで2メートルしか歩きません。けれども、Tさんは「2メートル歩いた」と満足され、それ以上歩くことはありませんでした。

体力維持に繋がるリハビリを実践するためにはどうしたら良いだろうか。医師はTさんと一緒に週に1回2メートル歩くことにどういう意味があるのかを考えました。そして、筋力は付けられないという結論に至りました。

Tさんがリハビリに身が入らないのは、ただでさえ日常生活動作(ADL)で息苦しく、リハビリで心臓に負荷をかけるなんて考えられないという理由からでした。けれども、心不全だからといってじっとしていると心臓の筋肉も身体全体も弱まっていきます。適切な負荷をかけることでしか悪化を防ぐことはできません。

医師は会話の流れで、Tさんのこれまでのご経験がリハビリを受け入れる糸口になると考えました。かつて甲板の上をよく歩かれていたというTさんにとって幅20㎝の板の上を歩くのはお手の物でした。そして、医師は甲板の上を歩くのをイメージしたリハビリを提案したのです。Tさんにとって甲板の上を歩くことは現役時代の自分を思い出すことにも繋がりました。甲板を行ったり来たりするイメージでリハビリが始まりました。もはや、Tさんにとって歩くことはリハビリではなく、思い出を行ったり来たりする行為にもなりました。そうして、Tさんはまだ歩けるという自信さえ築いていきました。

楓の風の訪問リハビリはその方に合ったリハビリの方法を見つけ出すこと。時には指導というよりもその方が自然に身体を動かしてしまうような動作を共に作り上げること(共創関係)もあります。一人ひとりに合わせた動きはその方の人生にも及ぶ深い動きなのだと、私たちは考えています。

(この記事は事実を元に再編集しています。)