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映画「PLAN75」での生死の選択権について考える

2022.06.16

映画「PLAN75」での生死の選択権について考える

「人は生きていること、それだけで尊いことだ」とは、映画「PLAN75」(2022年6月17日から公開)が初の長編作品となる早川千絵監督の言葉です。映画は第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール スペシャルメンション(特別賞)を受賞しました。「PLAN75」とは「満75歳から自らの生死の選択ができる制度。映画では架空の制度を媒介に、人は何を選択し、どう生きていくのかを問いかけます。

さて、この制度について在宅医療に従事する立場からお話します。どんなに前向きな方でもその日、その時の体調によって気持ちの浮き沈みが生じます。そうした中で「PLAN75」のように生死の選択を自己判断、自己完結してしまうのは疑問を感じずにはいられません。特に治療やケアに関わる内容であれば、プロの知見を生かしていただくことをお勧めします。良い例が人生会議です。

人生会議は元気なうちからもしもの時の備えをしようと厚生労働省が啓発・普及に努めています。人生会議の他にアドバンス・ケア・プランニング(ACP)とも言います。

終末期に自分が受けたい医療とケアは何なのか。そのために手放せる選択は何なのか。大切なご家族や近しい人たちと、また医療者と思いを共有しようという取組みです。終末期の選択とは言っても結論を出すことが目的ではありません。考えるプロセスを大事にしています。また、必ずしも終末期に焦点を当てるのではなく、残りの人生をどう生きるかを考えてより良い人生につなげていく狙いがあります。しかも、1回で結論を出して終わりではありません。何度も何度も話し合うことを大切にしています。なぜなら、生死に関する思いはその人が置かれている状況によって揺れたり、変化したりすることもあるからです。

訪問診療でも初診時に在宅医が「どう過ごしていきたいか」と、ご本人の人生観を伺います。ご本人の望みに合わせた医療の選択肢を示し、治療方針を決定するためです。新たに治療やケアの選択の必要性が出る度に、ご本人やご家族のご意向を確認します。こうした話し合いはその方の療養生活を支える訪問看護師、理学療法士、ケアマネジャーなど全ての人に共有されます。

在宅医療の現場で丁寧に話し合いを重ねるのは、なぜでしょうか。生きるということ、そのこと自体が尊いからです。「PLAN75」のように生死の選択を一刀両断できるものではないのです。

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